掻爬手術(悲しいです)
手術当日は、とても寒い日だった。
普段雪が降らない地域だけど、
今週頭くらいから珍しくもどかどか雪が降って、積もっていた。
当日は雪は降ってはいなかったけど
道路にまだ雪が残っていて、
自分の育った、雪国の冬の景色を思い出させる光景だった。
病院に着いて先生の内診。
「うーん。前回よりも、胎嚢全体が縮んでいるね。」
どうやら、子宮がやっと流産を感知して
これから出血~排出の準備をしているようである。
「双子だからね、出てくるのが遅いんだよね。
いつまでもお腹にとっておくのも実は身体にはよくないから、
もう流産から3週間近く経っているし、手術できれいにしようか。」
そう言われ、診察室を出た後、段取りの説明が始まった。
手術を行うのは、どうやら2階のようだ。
看護師さん・夫・私の3人でエレベーターに乗り、階に到着。
エレベーターが開く。
「・・・・(おぉ・・・堪える・・・)」
私は心の中でつぶやいた。
エレベーターのすぐ真ん前には、
新生児コーナーが設けられていて、
生まれたばかり~数日の赤ちゃんがたくさん並んでいた。
正直、今の自分には目も当てられなかった。
輝かしくて、穏やかで、優しくて、明るくて、幸せな空気感で溢れてる。
自分が望んでいた世界、手が届かない光景だった。
ちょうど、見に来ているご家族もいて、とても幸せそうだった。
今までであれば「羨ましい」「なんで私ばっかりこんな目に」と
悲壮感が膨らむはずだが、
不思議なもので、赤ちゃんの元気な鳴き声を聞くと、
「ああ、赤ちゃん。元気に生まれて来れたんだね。よかったね。」と
素直に思えた。
もっと嫉妬のようなドロドロした黒い感情が出るかと思ったんだけどな。
この感情には、自分でも驚きだった。自分のことで精いっぱいだったからかな。
手術自体は10分くらいの処置だそうだ。
でも、前処置などいろいろあるので、結局1時間くらいかかる。
夫はお昼ごはんを食べに、近場に行くことになり(看護師さんがそう勧めてた)
私一人が、部屋に残った。
一人ってさ、心細い。
そそくさとガウンに着替えて、手術室に向かう。
手術室って、つまり分娩室だった。
悲しかった。
本当なら、元気な赤ちゃんが生まれるところなのに。
なんで自分はさよならしなきゃいけないんだろう。
この辺りから、本当につらくなった。
だってここ、新生児室の隣なんだもん。
隣から元気な赤ちゃんの声が聞こえる。
分娩台に登って、前処置が始まった。
このころの気持ちは「無」だった。
悲しいけど、今は悲しいどころじゃなくて。
心細いけど、やるしかなくて。
不安だけど、仕方がなくて。
妊娠したら、
何の間違えもなく当然赤ちゃんは生まれるものだと、私は思っていた。
現実は違った。
ちょうど、1か月前が、初めての受診だった。
とっても幸せだったなあ。
まさか1か月後、自分がこうなるなんて、
あの時の自分は微塵にも思わなかった。
でも、仕方ない。仕方ないことなのだ。
少し前から、麻酔の導入剤のせいか頭がぼうっとしてきた。
若干気持ち悪い。
「麻酔しますね。」
そう声が聞こえた。
「先生が来られましたー」
遠くで声がした。
・・・意識がなくなった。